F Residential

都心の閑静なエリアに立地する集合住宅計画である。地域のコンテクストを考慮した建築ボリュームを検討しながら、同時に複雑で多様な内部プログラムの検討を重ね、それらが融合するような計画とした。

施工:サンケイビルテクノ
写真:川辺明伸
  • LOCATIONShinagawa, Tokyo
  • CLIENTPrivate
  • TYPEResidential
  • SIZE500 sqm
This residence is located in a quiet and historical area in metropolitan Tokyo.
In this project, we achieved the integration of both the neighborhood’s architectural context and the client’s request of a complex and versatile internal design.

① お客様との出会い

70 代 F さんご夫妻と二人の息子さんのご家族が暮らす、三世代の三世帯住宅の計画です。F さんご一族は長らくこの地に住まわれてきました。社会人として独立された息子さん達はそれぞれ別の地に住まいを構えていましたが、今回改めてこの地で三世帯でともに暮らしたいという想いから、ご相談を頂きました。
まずは、ご一族が(F さんご夫妻は本敷地にお住まい中)実際に暮らしていたお住まいでのライフスタイル、ランドスケープなどを素直な目線で拝見させて頂き、そのあとに今後の計画についてお話を伺いました。
*ご予算は住宅本体と外構で 暫定総工事費12,000 万円(税抜)とし、弊事務所の設計監理費は総工事費の 10%(着手金1%、基本設計完了2%、実施設計完了4%、引渡し時3%)で進めさせて頂く事になりました。
*スケジュールは、既存家屋解体・造成整備(2ヶ月)、設計・申請(4ヶ月)、工事(7ヶ月)を含めて13ヶ月で進めることになりました。

 

②基本構想

懇談やメール等でのご希望内容を整理した 3 案(間取りと3Dモデル)をご提案し、どのような住まい方が可能なのか、法規的な話や費用などをご説明させていただきました。そこで、方向性を整理しながら12 案ほど検討して基本構想をまとめました。全体敷地の中で三世帯が分棟として形成されるのか、結合された一棟の中に複合的に構成されるのか、ランドスケープの考え方、相続の事、等々多角的に考察して、三世帯皆様のコミュニケーションと一体感が整うまで丁寧に計画の方向性を定めました。


③基本設計

基本構想が定まりましたら、主要デザイン(敷地全体の配置とランドスケープ、平面プラン、建物断面計画、地域社会と繋がる建物としての外観)を基本設計として取りまとめました。三世帯の居住区域が建築構造的に複雑に構成されているので、細部に至るまで丁寧に取りまとめ、3Dモデルと動画で視覚的に分かりやすいようご提案しました。

 

④ 実施(詳細)設計、建築確認申請、施工業者の決定と工事契約

基本設計をベースに詳細設計を始めます。キッチン、浴室、トイレなど水回りや三世帯それぞれのライフスタイルにとって大切な部分のデザインや仕上素材を最終化していきます。三世帯分の木造架構は複雑なので構造計画も慎重に検討して、四寸角以上を標準として安全率も建築基準法上の規定よりも強化しました。キッチン設備に関しては専門コンサルタントにもご協力頂きました。詳細設計と3Dモデルが整ったら、建築主と共に全図面・各種資料・3Dを最終確認して、修正事項があれば更新していきます。その後は行政の建築確認申請の手続き(約3-4週間)と、今回の工事内容に見合った施工会社 2 社に見積依頼しました。2 社の見積書・工程表・担当者経歴を比較し、施工会社を決定します。同じタイミングで建築確認申請の許可も決済されます。
そして、施工会社と建築主との工事契約をセッティングし、設計監理者として立合い押印します。



⑤ 既存建物解体、敷地再測量、地盤調査、地鎮祭、そして着工

既存建物を解体し、更地の状態で敷地の再測量を行い設計時の測量図の精度を確認します。都市部では建築条件が厳しいためにセットバックや日影規制などに対して建築設計をギリギリまで追い込んで計画することが多いので、重要な作業になります。そのデータを基に建物のおおよその位置に縄(地縄といいます)を張って、建物の端部と中心部分で改めて地盤調査を行います。設計時の地盤調査では既存建物が存在するために採取できない位置データがありますので、これも重要な作業になります。そして、日柄の良い時に建築主ご家族、設計者、工事関係者が集まって、この土地に皆で感謝し、建物の各方角に向かって工事安全を願います。その後はいよいよ基礎工事です。今回は三世帯の中長期的なライフスタイルの変化にも適応させるため、建物を二分割に切り離せるような構造となっています。最も難易度が高かったのは、この部分を技術的に成立させることでした。

 

⑥べた基礎、墨出し

今回は関東ローム層という良好な地盤に恵まれたので杭打ちは必要なく、建物が地面に接する全面にコンクリートを打設して上部構造を支える「ベタ基礎」を採用しました。まずは地中に砕石を敷き固めて捨コンクリートを打設してから、建物の正確な位置を決めるための墨出しを行います。

 

⑦ 基礎工事、木材を組む建方、最上段の棟木を組む上棟

建物本体を下から支える基礎コンクリートはとても重要であり、後から修正ができないので、正確に鉄筋を組み適切な配合のセメントでコンクリートを打設して、しっかり硬化させます。そして、その後は木造の骨組になる土台・柱・梁を一気に組み上げて、最後に最上段の棟木を組めば上棟(棟上げ)となります。この一連の工程を建方(たてかた)と言い、木造在来工法の大工さんの腕の見せ場であります。大きな木槌でトーントーンを材木同士を叩きながら組み上げていく音はとても美しいものです。今回は上棟式を行い、最頂部の棟木にご近所の神社で頂いたお札を貼り付けました。



⑧ 屋根工事、外壁工事、配管工事、断熱工事

上棟後は材木が濡れないように直ちに屋根を張り、外壁工事に取り掛かります。弊事務所は外壁内部の結露を防ぐため通気工法を用いています。またここで、電気や給排水の配管を行います。断熱材を外壁、屋根裏に発泡ウレタンフォームを吹付充填し、床下にはポリスチレンボード(75 ㎜寒冷地仕様)でくまなく断熱しました。ちなみに建物のねじれを防ぐための筋交(すじかい)、方杖(ほうづえ)はダブル仕様として建築基準法の規定よりもかなり割り増して安全率を高めてあります。(写真参照)



⑨ 各種設備機器設置工事、内外装工事、仕上工事

住宅内部の間仕切壁(空間を仕切る壁)を作り、引き続き各種配管工事を進めながら、ユニットバスやキッチン、床暖房パネル、天井埋込エアコンなどの大きな住宅設備機器を搬入設置します。そして床材・壁紙・左官・タイル・天然石などの仕上工事に進みます。また、(既製品ではなく)建築工事で製作した棚や収納などの造作家具などの取付もおこないます。
外部に関しては、庇や軒裏などのディテール部分の工事と、外壁仕上(左官やパネル)を作業します。


⑩照明器具、アクセサリー備品取付、 外構工事の完成

天井や壁面の照明設置及び動作確認、トイレや洗面所のアクセサリー備品の取付、外部の植栽やアプローチやウッドデッキ、門扉やセキュリティカメラなどの工事を行います。
また、建築主の思い出の絵画などもピクチャーレールなどを設置して取付けます。テーブルやソファなどの置き家具も建築設計チームで選定購入(FFEと言います)致しましたので、それらの搬入設置も行います。


⑪確認申請機関の完了検査、設計監理者及び建築主による検査、引渡し

確認申請機関の検査員による完了検査(今回は消防署の検査はありませんでした)を受けて検査済証を頂きます。指摘事項がある場合は是正してから写真提出確認などを経て合格となります。設計監理者と建築主も工事品質を検査し、手直し部分を施工会社に伝えます。そして改めて工事が完了し、検査済証や各種取扱い説明書が全て揃いましたら、建物と鍵のお引渡しとなります。


⑫お引渡し後

行政機関への建築関係の完了届(緑化、省エネルギー法、街づくり、等々)の提出し、建物登記の添付書類のお手伝いを致します。