A-house

優しいお父さんお母さん、素直にすくすく育っている3人のお子さん、ワンちゃんの暮らす住宅です。1階はリビング、ダイニング、キッチンなどのみんなが集う空間。2階は寝室、お風呂などのプライベート空間。ご家族のヒストリーの原風景になる空間として、どこまで設計で踏み込むか、踏み込まないか、の思考を積み重ねながら作りました。自然光や柔らかな風などを感じられるように計画し、生活空間として天然素材や耐久性を考慮した仕上を心掛けました。この住宅自体がご家族の「道具」としてどんどん使い込んで頂ければありがたいです。

施工:持田建設
写真:川辺明伸
  • LOCATIONSetagaya, Tokyo
  • CLIENTPrivate
  • TYPENew construction, Single family house
  • SIZE150 sqm
This house is called home by a kind father and mother, three young and honest children, and a playful terrier. The first floor is a space where everyone gathers — the living room, dining room, and kitchen. The second floor is a private four-bedroom and bathroom. When designing their new home and safe haven, I put my main priority on creating a living space that encapsulates this family’s history and characteristics. I designed it to bring in natural light and soft breezes and incorporated natural materials to create a finish that offers durability and coziness. I hope for this home to be used more as a “tool” that brings abundant happiness to the family.

① お客様との出会い

今回は弊事務所とお付き合いのある不動産会社さんからのご紹介により、 40 代ご夫妻、高校生・中学生・小学生のお子さんのご家族の住まい計画です。A さんはお仕事で駐在されていた中米から帰国され、日本でご自宅を建てることになりました。A さんが生まれ育った東京世田谷のご実家敷地に、A さんのご両親と弟さんご家族が母屋に二世帯住居として暮らしています。A さんもご一族と共に暮らしたいとお考えから敷地を分割(分筆)し、新たにもう一棟住宅を建てる計画になりました。



② 複数棟の配置と土地分割、理想の住まいをかたちへ

A さんの理想の住宅、そして土地全体を二分割し母屋の敷地環境デザインを同時進行致しました。これはニワトリと卵の関係に近く、理想の住宅を建てる為にどんな敷地が必要か、一方でどんな敷地が2棟に対して最善か、、、。また、インフラ(電柱の移設、上下水道、ガス、電話、ネット回線など)調整の可否について諸官庁や当該企業と先行調整も必要です。
*ご予算は住宅本体と外構(造成含む)で 暫定総工事費6000 万円(税抜)とし、弊事務所の設計監理費は総工事費の 10%(着手金1%、基本設計完了2%、実施設計完了4%、引渡し時3%)で進めさせて頂く事になりました。
*スケジュールは、土地分割・造成整備(2ヶ月)、設計・申請(3.5ヶ月)、工事(5.5ヶ月)を含めて11ヶ月という計画となりました。
*全体の方向性が決まりましたので、着手金をお願いさせて頂きました。



③建築、敷地、インフラの基本設計

A さんご家族のイメージする理想の住まいをリラックスした雰囲気の会話の中で伺いしました。三世帯のご家族が庭を介して緩やかに繋がり合うよう、一階にはリビングと食事だけでなく多目的に活用する大テーブル、ライブ型のオープンキッチンを配置し、Aさんが海外駐在で過ごされた時に感じたカルチャーである“楽しいことが共鳴し合うような空間”を構想しました。構造的には一階が仕切りのない多目的な大空間、二階にご家族の寝室や水回りなど重量のある空間を持ってくる為の構法を検討し、弊事務所の標準仕様である4寸角(120mm角)の柱に加えて、更に強度を上げた構造材を採用しました。また、この地域は世田谷区の中でも重要拠点地域(世田谷区役所が近い)であることから、建物の防火性能も準耐火構造を求められました。
コロナ禍で実際にお会いして打ち合わせできる頻度も限られるので、オンラインミーティングを有効活用しました。色々な事を同時進行させていく際に文章メールやスケッチ、図面資料に加えて、計画案の長所・短所がしっかり把握できるよう3D モデルに重要な情報を集約させました。オンライン画面上でモデル全体を俯瞰したり、ウォークスルーで細部を確認したりして、メールや図面資料の内容のビジュアル化、また空間そのもののレビューなど、ひとつひとつ丁寧に進めていきました。
そしてデザインのあらゆる局面に「環境へ配慮」と「安全安心」を問いました。自然光や風通しを感じられるようにして機械設備だけに頼らないようにし、また機械設備も費用に対して効果的なもの、健康・環境に配慮した素材を選定しました。また、住宅の基本構成を整えながら既存母屋の生活空間や3世帯の共用空間(駐車場、植栽、来客動線)についても、施主・行政・各専門家・(そのうち参加する)工事関係者・近隣住民・各種インフラ企業(電力、ガス、水道・通信など)と調整を行い、豊かで持続可能性の高い環境を計画しました。細かな事項ですが、敷地前の道路が世田谷区の狭あい道路に指定されており、その調整も行いました。




④ あとで調整の難しい「こだわりたい」部分(キッチン、洗面、トイレ、浴室、ワンちゃん洗い場など)の打ち合わせと基本設計の整理

ご家族にとって大切な“食卓を囲む”ことの可能性や機能を更に発展させるためにに数社のキッチン会社にも参加頂き、キッチンの細かな構成や調理機器、収納、仕上素材をご一緒に検討し、ガスや電気、配管などのインフラ要素も整理しました。今回は二階にお風呂を設ける計画により、木造建築は動くので長期的な防水性能を考慮してユニットバスで進めることにしました。お客様と共にショールームに行き、サイズや機能、コストなどを検討し決定しました。洗面所やトイレは来客者も使用する空間なので、機能寸法や空間の居心地等を提案させて頂きデザインしていきます。ワンちゃんの散歩からの洗い場動線なども丁寧にデザイン検証が必要です。
また、この段階で建築基準法をはじめ様々な法規の確認を行い、基本的な間取り、全体の立体デザイン、外構の方向性を決めて、これで基本設計が整います。
*基本設計完了をご精算させて頂き、工事費が予算内に収まっているかの概算チェックも行いました。


⑤実施(詳細)設計と建築確認申請

Aさんご家族の暮らしに大切な部分や好みなどを更に細かく打ち合わせして、更なる詳細設計を行います。仕上素材、照明、床暖房や空調換気、収納、洗面所やユーティリティなどについて何度も図面や3Dをご用意して打ち合わせします。手で触わる質感や見た目の感じ、耐久性や機能性を検証しながら決断して図面を揃え、施工会社が迷うことなく正確に工事できるような精度の高い図面を完成させます。そして各種法規を再参照して建築確認申請(この設計内容で工事します)の手続きを行い、行政庁から許可を頂きます。


⑥ 数社の施工会社へ工事見積依頼と決定、工事契約

今回の工事内容に見合った施工会社数社に工事見積を依頼します。図面を渡し質疑回答を経て3週間後に工事見積書・工程表・工事体制表・支払条件を提出して頂きます。工事金額や施工期間、アフターケア体制、そして施主とのコミュニケーションの相性なども大事な要素になります。それらを総合的に考慮してM建設に依頼することに致しました。M建設は横浜の文化財である洋館群や歴史的建造物を修復・メンテナンスしている実力と信頼のある施工会社です。
建築主と施工会社の工事契約を設計監理者である弊事務所が整えて、図面等も添付して契約に立ち会います。
*最終確定設計による正式な工事金額に対して実施設計費をご精算させて頂き、それ以前の業務費の増減調整も行います。


⑦ 念の為の土地再測量、地縄、地盤調査、地鎮祭

施工会社は既存建物・門扉等を解体して植栽も適宜移植し更地にして、障害物の無い状態で土地の再測量を行い敷地形状をチェックします。その後、計画建物のおおよその外周位置を知るべく縄を張る作業(地縄)を行います。また、地盤調査もこの段階で再度行い精度の高いデータを取得します。そして、日柄の良い時に建築主ご家族、設計者、工事関係者が集まって、この土地に皆で感謝し、建物の各方角に向かって工事安全を願います。


⑧ 杭打ち、べた基礎、墨出し

今回はタイガーパイルという細い鋼管杭を沢山打ち込んで剣山のような状態にして、地中から建物を支えます。その後、地中に砕石を敷いて固めて捨コンクリートを打設してから、その上で建物の正確な位置を決めるための墨出しを行います。

 

⑨ 基礎工事、木材を組む建方、最上段の棟木を組む上棟

建物本体を下から支える基礎コンクリートはとても重要であり、後から修正ができないので、正確に鉄筋を組み適切な配合のセメントでコンクリートを打設して、しっかり硬化させます。そして、その後は木造の骨組になる土台・柱・梁を一気に組み上げて、最後に最上段の棟木を組めば上棟(棟上げ)となります。この一連の工程を建方(たてかた)と言い、木造在来工法の大工さんの腕の見せ場であります。大きな木槌でトーントーンを材木同士を叩きながら組み上げていく音はとても美しいものです。


⑩ 屋根工事、外壁工事、配管工事、断熱工事

上棟後は材木が濡れないようにすぐに屋根を張り、外壁工事に取り掛かります。弊事務所は外壁内部の結露を防ぐため通気工法を用いています。またここで、電気や給排水の配管を行います。断熱材を外壁、屋根裏に発泡ウレタンフォームを吹付充填し、床下にはポリスチレンボード(75 ㎜寒冷地仕様)でくまなく断熱しました。


⑪ 各種設備機器設置工事、内外装工事、仕上工事

住宅内部の間仕切壁(空間を仕切る壁)を作り、引き続き⑩の各種配管工事を進めながら、ユニットバスやキッチン、床暖房パネル、天井埋込エアコンなどの大きな住宅設備機器を搬入設置します。そして床材・壁紙・左官・タイル・天然石などの仕上工事に進みます。また、(既製品ではなく)建築工事で製作した棚や収納などの造作家具などの取付もおこないます。
外部に関しては、庇や軒裏などのディテール部分の工事と、外壁仕上(左官やパネル)を作業します。


⑫照明器具、アクセサリー備品取付、 外構工事の完成

天井や壁面の照明設置及び動作確認、トイレや洗面所のアクセサリー備品の取付、外部の植栽やアプローチやウッドデッキ、門扉やセキュリティカメラなどの工事を行います。
また、建築主の思い出の絵画などもピクチャーレールなどを設置して取付けます。今回はテーブルやソファなどの置き家具も弊事務所でコーディネートしてセレクトし購入(FFEと言います)致しましたので、それらの搬入設置も行います。


⑬確認申請機関の完了検査、設計監理者及び建築主による検査、引渡し

確認申請機関の検査員による完了検査(今回は消防署の検査はありませんでした)を受けて検査済証を頂きます。指摘事項がある場合は是正してから写真提出確認などを経て合格となります。設計監理者と建築主も工事品質を検査し、手直し部分を施工会社に伝えます。そして改めて工事が完了し、検査済証や各種取扱い説明書が全て揃いましたら、建物と鍵のお引渡しとなります。
*お引渡し時に工事監理料金として最終工事費の 3%のご精算をさせて頂きました。


⑭お引渡し後

行政機関への建築関係の完了届(緑化、道路セットバック、街づくり、等々)の提出し、建物登記の添付書類のお手伝いを致します。